診療方針
脳神経内科は、脳・脊髄・末梢神経・筋肉の疾患の診療を行います。その中でも、当院の救命救急センターに搬入される神経救急患者、特に脳卒中患者を多数診療していることが特長です(⇒症例数・治療実績)。救命救急センター内に設置した脳卒中センター(⇒)では、脳卒中診療経験を有する脳神経外科医または脳神経内科医が、24時間365日院内に常駐して脳卒中の救急搬入に対応しています。脳神経内科では、超急性期脳梗塞に対する再灌流療法とともに長期の脳卒中再発予防にも積極的に取り組んでいます。
外来では、かかりつけ医との連携を推進しており、紹介外来制を原則としています(2023年度地域医療支援病院紹介率58。8%)。紹介患者の診断結果は紹介医に報告するとともに、連携医の先生方と共有すべき神経疾患については、地区医師会との合同症例検討会で報告・ディスカッションしています。
急性期脳卒中診療体制
脳卒中センターでは、脳神経外科と協力して脳卒中診療を行っています。脳神経内科は、脳梗塞、一過性脳虚血発作、保存的治療が適応となる脳内出血を担当します(⇒症例数・治療実績)。超急性期脳梗塞に対するアルテプラーゼ(rt-PA)静注療法は、超急性期脳梗塞に対するアルテプラーゼ(rt-PA)静注療法は、2005年秋の認可以来500例以上に施行しました。また、近年治療成績が飛躍的に向上したカテーテルを用いた脳血栓回収療法は、脳神経血管内治療学会専門医(または同専門医に準じる経験を有する脳血栓回収療法実施医)である脳神経内科医と脳神経外科医が協同して行っています。
ラクナ梗塞やbranch atheromatous disease(BAD)型梗塞などの穿通枝梗塞は、急性期に症状が動揺・増悪して重度の運動麻痺が残存することが少なくありませんが、急性期からの抗血小板療法の組み合わせによる強化抗血小板療法が有用である可能性があり(Yamamoto Y, Nagakane Y, et al. Int J Stroke. 9: E8, 2014.)、最近ではアルガトロバン、抗血小板薬2剤、スタチンを併用するスタチン併用多剤抗血栓療法(MACS: Multiple Antithrombotic therapy Combined with Statin)を行っています(永金義成,他.BRAIN and NERVE. 70: 557-562, 2018.)。
慢性期脳卒中診療体制(脳卒中再発予防外来)
急性期治療の進歩や回復期リハビリテーションの充実により、脳卒中患者の社会復帰率、在宅復帰率が向上するにつれて、脳卒中再発予防の重要性が増してきました。虚血性脳卒中患者の脳卒中再発率は高く、発症後1年で8~10%、5年で18~34%と報告されていますが、頸動脈内膜剥離術や頸動脈ステント留置術などの外科的治療とともに、危険因子の管理や抗血栓療法などの内科的治療の有効性を示すエビデンスが蓄積されつつあり、こうしたエビデンスに基づいた治療を複合的・長期的に行うことにより脳卒中再発は減少すると予想されます。
当科では、転院やかかりつけ医へ紹介する際に最善の再発予防方針を提供できるよう、入院中には徹底した脳卒中再発リスク評価を行います。また、入院中の脳梗塞患者が病棟看護師から再発予防に特化した生活指導(2018年2月開始)を受けると、1年後の再発率が大幅に低下することがわかり、すべての病棟で統一した生活指導が行えるよう取り組んでいます(第48回日本脳卒中学会学術集会(2023年3月)で発表)。
さらに、長期の再発予防に向けて、脳梗塞発症1年後に脳卒中再発予防外来でフォローアップさせていただき、脳卒中再発や無症候性脳梗塞・脳出血の確認、危険因子や頭頸部血管病変の再評価、退院時の再発予防方針の見直しを行っています。こうした取り組みにより2014年4月から2015年9月までに脳梗塞または一過性脳虚血発作で入院した555例の5年累積脳卒中再発率は19%に低減しました(永金義成,他.臨床神経. in press)。今後もかかりつけ医と連携しながら長期に渡る脳卒中再発予防を目指します。
症例数・治療実績
2021年 | 2022年 | 2023年 | |
年間入院患者数(1-12月) | 804 | 713 | 683 |
脳血管障害 | 611 | 554 | 495 |
脳梗塞・一過性脳虚血発作 | 447 | 426 | 378 |
脳出血・その他の血管障害 | 164 | 128 | 117 |
発作性・機能性疾患(てんかんなど) | 89 | 76 | 95 |
感染性・炎症性疾患 | 18 | 12 | 12 |
末梢神経疾患 | 4 | 3 | 7 |
中枢性脱髄疾患(多発性硬化症など) | 1 | 7 | 3 |
変性疾患(パーキンソン病、脊髄小脳変性症など) | 25 | 16 | 24 |
筋疾患 | 9 | 4 | 4 |
脊椎・脊髄疾患 | 7 | 3 | 7 |
腫瘍性疾患 | 3 | 2 | 1 |
その他(内科疾患に伴う神経疾患など) | 32 | 31 | 35 |
急性期脳梗塞または一過性脳虚血発作入院患者の転帰(2019~2021年度)
2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | |
発症7日以内の入院患者数 | 427例 | 442例 | 446例 |
平均年齢(歳) | 75.0 | 76.3 | 76.1 |
入院時NIHSS,中央値 | 3 | 4 | 4 |
平均在院日数(日) | 21 | 19 | 20 |
日常生活自立(mRS 0-2),退院時 | 61% | 57% | 52% |
日常生活自立(mRS 0-2),3ヶ月後 | 65% | 60% | 54% |
日常生活自立(mRS 0-2),1年後 | 64% | 59% | 53% |
死亡率,入院中 | 3% | 2% | 3% |
死亡率,3ヶ月後 | 6% | 6% | 7% |
死亡率,1年後 | 11% | 12% | 15% |
NIHSS: National Institutes of Health Stroke Scale, mRS: modified Rankin Scale
臨床研究
臨床現場で得られた知見は、国内外の学会で発表したり、学術誌に報告したりしています(⇒主な業績)。特に、急性期虚血性脳卒中の中でも、いわゆるbranch atheromatous disease(BAD)型梗塞における進行性運動麻痺については、多数例を通して病態解明の研究、各種治療の試行を精力的に行ってきました。ここ数年は、脳卒中再発に関する研究に取り組んでいます。また、国内における代表的脳卒中診療施設の一つとして、下記の通り先進医療を含む多くの多施設共同研究や治験に参加しています。
- THAWS2研究
睡眠中発症や発症時刻不明脳梗塞でFLAIR陰性患者に対するアルテプラーゼ静注療法の実臨床のおける安全性と有効性を評価する多施設共同観察研究. -
BAT2研究
抗血栓療法新時代における脳・心血管疾患患者への経口抗血栓薬の使用実態と安全性を解明する多施設共同観察研究. -
KOACSレジストリ
京都地域における経口抗凝固薬服用中の脳卒中患者の多施設共同登録研究. - ATIS-NVAF研究
非弁膜症性心房細動とアテローム血栓症を合併する脳梗塞患者の脳卒中再発予防における最適な抗血栓療法を検討する多施設共同研究.
- FASTEST試験(先進医療)
発症早期の脳内出血患者に対する凝固第VII因子投与の有効性と安全性を検証する国際臨床試験
-
SAFE-ICH研究
頭蓋内出血を発症した心房細動患者の早期抗凝固療法に関する安全性と有用性を検討する多施設共同観察研究 -
ACUTE-PRAS研究
脳梗塞再発リスクの高い急性期アテローム血栓性脳梗塞およびTIA患者に対するプラスグレルとクロピドグレルの比較臨床研究 - T-FLAVOR研究
発症4.5時間以内の脳主幹動脈閉塞に伴う脳梗塞患者に対する新規抗血栓溶解薬テネクテプラーゼの臨床応用を目指した研究 - REVERXaL試験
第Xa因子阻害剤による治療下で大出血認めた患者に対する多国籍縦断的観察研究
主な業績(過去3年間)
永金義成, 他. 直接経口抗凝固薬普及後の脳梗塞または一過性脳虚血発作患者の5年転帰. 臨床神経. in press.
Fukunaga D, et al. Absence of susceptibility vessel sign with cancer- associated hypercoagulability-related stroke. AJNR Am J Neuroradiol. 2024 May 30:ajnr.A8363. doi: 10.3174/ajnr.A8363. Online ahead of print.
Fujinami J, et al. D-dimer trends predict recurrent stroke in patients with cancer-related hypercoagulability. Cerebrovasc Dis Extra. 14: 9-15, 2024.
Yamada T, et al. Effects of preceding antiplatelet agents on severity of ischemic stroke in patients with a history of stroke. J Neurol Sci. 456: 1228572023, 2024.
Yamamoto Y, et al. How Topographic Diffusion-Weighted Imaging Patterns can Predict the Potential Embolic Source. Clin Neuroradiol. 34: 363-371, 2024.
徳田直輝, 永金義成. 大動脈解離. 内科. 133: 1327-1331, 2024.
永金義成, 他. 急性期虚血性脳卒中患者における90日後の重篤な転帰の予測因子. 脳卒中. 45: 229-235, 2023.
西井陽亮, 他. 推奨用量の直接作用型経口抗凝固薬内服中に発症した脳梗塞の臨床的特徴. 脳卒中. 45: 120-124, 2023.
永金義成. 非心原性脳梗塞に対する静注抗血栓薬(オザグレル,アルガトロバン)の使用. Pro 静注抗血栓薬を含むカクテル療法を活用する. medicina. 60: 482-485, 2023.
Hamanaka M, et al. Long-term effectiveness of anticoagulants in oldest-old stroke survivors with atrial fibrillation. J Clin Neurosci. 102: 21-25, 2022.
Tanaka E, et al. Early recurrence in patients with symptomatic, non-cardioembolic, internal carotid artery occlusion. J Stroke Cerebrovasc Dis. 31: 106571, 2022.
Fukunaga D, et al. A case of peripheral-type facial palsy with dysgeusia due to pontine infarction: A case report. Neurol Clin Neurosci. 10: 325-327, 2022.
永金義成, 山本康正. ESUS: branch atheromatous disease. 脳神経内科. 97: 647-655, 2022.
前園恵子, 他. 脳梗塞と脳静脈血栓症を来した発作性夜間ヘモグロビン尿症の1例. 臨床神経. 62: 27-32, 2022.
Nagakane Y, et al. Attack Interval Is the Key to the Likely Pathogenesis of Multiple Transient Ischemic Attacks. Cerebrovasc Dis Extra. 11: 92-98, 2021.
Yamamoto Y, et al. Atherosclerotic Vertebral Artery Occlusive Disease Predicts Poor Functional Outcome in Medullary Infarction. Int J Phys Med Rehabil. S7: 001, 2021.
藤並潤. がんと脳卒中. 京都府立医科大学雑誌. 130: 795-802, 2021.
共同研究に関する論文
[THAWS2 Study] Yoshimura S, et al. Cerebrovasc Dis. 53: 46-53, 2024.
[BAT2 Study] Tanaka K, et al. Ann Neurol. 95: 774-787, 2024.
[SVIN COVID-19 Global Stroke Registry] Nguyen TN , et al. Neurology. 100: e408-e421, 2023.
[RESPECT Study] Kitagawa K, et al. Hypertens Res. 45: 591-601, 2022.
[THAWS Trial] Miwa K, et al. Int J Stroke. 17: 628-636, 2022.
[SAMURAI Study] Kim BJ, et al. PLoS One. 16: e0258377, 2021.
[SVIN COVID-19 Global Stroke Registry] Nogueira RG, et al. Neurology. 96: e2824-e2838, 2021.
[SVIN COVID-19 Global Stroke Registry] Nogueira RG, et al. Int J Stroke. 16: 573-584, 2021.
スタッフ
日本神経学会専門医、日本脳卒中学会専門医を含めて8名の常勤スタッフと3名の脳神経内科専攻医、2名の非常勤スタッフが入院・外来診療を担当しています。日本神経学会教育施設、日本脳卒中学会研修教育施設にそれぞれ認定されており、毎月1~3名の初期研修医が脳神経内科研修を選択し、スタッフ・専攻医とともに主に入院診療を担当しています。
職 名 | 名 前 | 卒業 年度 |
専 門 | 資 格 |
部 長 | 永金 義成 | H7 | 臨床神経 脳卒中 |
日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医・指導医 日本神経学会 神経内科専門医・指導医・代議員 日本脳卒中学会 脳卒中専門医・指導医・代議員 京都府立医科大学 臨床教授 |
医 長 | 德田 直輝 | H20 | 臨床神経 脳卒中 脳血管内治療 |
日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医・指導医 日本神経学会 神経内科専門医・指導医 日本脳卒中学会 脳卒中専門医・指導医 日本脳神経血管内治療学会 脳神経血管内治療専門医 日本脳神経超音波学会 脳神経超音波検査士 |
医 長 | 山本 敦史 | H23 | 臨床神経 脳卒中 脳血管内治療 |
日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医・指導医 日本神経学会 神経内科専門医・指導医 日本脳卒中学会 脳卒中専門医 日本脳神経血管内治療学会 脳神経血管内治療専門医 |
医 長 | 小椋 史織 | H24 | 臨床神経 脳卒中 |
日本内科学会 認定内科医・指導医 日本神経学会 神経内科専門医 日本脳卒中学会 脳卒中専門医 日本脳神経血管内治療学会 脳血栓回収療法実施医 |
医 長 | 前園 恵子 | H24 | 臨床神経 脳卒中 |
日本内科学会 認定内科医・指導医 日本神経学会 神経内科専門医 日本脳卒中学会 脳卒中専門医 |
医 長 | 松浦 啓 | H25 | 臨床神経 てんかん |
日本内科学会 認定内科医・指導医 |
医 師 | 清水 夢基 | H30 | 臨床神経 | 日本内科学会 内科専門医 |
医 師 | 松岡 千紘 | H30 | 臨床神経 | 日本内科学会 内科専門医 |
医 師 | 西田 有騎 | R2 | ||
医 師 | 青木 聡 | R4 | ||
医 師 | 篠田 奈央 | R4 | ||
非常勤医師 | 濱中 正嗣 | |||
非常勤医師 | 岸谷 融 |
外来当番表
月曜日 | 火曜日 | 水曜日 | 木曜日 | 金曜日 | |
1診 |
松浦(AM) |
永金 |
徳田 |
小椋(AM) |
前園 |
山本(PM) |
岸谷 |
||||
2診 |
脳卒中専門外来 脳卒中再発予防 |
濱中 (脳卒中) (AM) |
脳卒中再発予防(PM) |
||
脳卒中再発予防(PM) |