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心臓血管外科について
心臓血管外科は平成6年の開設以来、地域の皆様に支えられ、多くの外科治療を行ってきました。平成30年4月より新体制となり、常勤医師4名と京都府立医科大学心臓血管外科からの応援により診療にあたっています。循環器内科との綿密な連携により、心臓、血管疾患に対し総合的に診療いたします。外科治療が必要な場合には、患者さんが安心、納得して治療をうけていただけるように十分説明した上で、豊富な知識と経験をもって一人一人の患者さんに適した治療を提供いたします。また、緊急手術にも24時間、365日対応しています。
*当科は心臓血管外科専門医認定機構 基幹施設です。
*当科は京都府立医科大学 心臓血管外科学教室の関連施設です。
《当科の特徴》 ※大動脈センターの文字をクリックするとメニューが開きます
1.大動脈センター
近年の高齢化に伴い大動脈瘤、大動脈解離の罹患率が増加しています。このため当院では、心臓血管外科を中心に、2018年9月「大動脈センター」を開設し、大動脈疾患に対してより専門的に対応し、診断に必要な検査・評価から手術治療まで一貫して行える体制を整えました。
大動脈瘤をはじめとする大動脈疾患は全身の動脈硬化を伴う場合が多いため、生命予後改善のためには、手術後も動脈硬化促進因子の抑制など、専門的治療が欠かせません。当センターでは、手術のみにとどまらず、血管ドック、術後の動脈硬化進行予防など、総合的な大動脈疾患診療に取り組んでいきます。
特徴
1.大動脈疾患(大動脈瘤・大動脈解離)を専門に扱うセンターです
2.すべての大動脈疾患患者を常時24時間受け入れます
3.超高齢者や臓器合併症を持つハイリスク症例にも積極的に対応します
4.診断に必要な検査・評価から手術治療までを一貫して当センターで行います
対象となるおもな疾患
■ 急性大動脈解離
■ 胸部大動脈瘤(慢性解離を含む)
■ 胸腹部大動脈瘤(慢性解離を含む)
■ 腹部大動脈瘤
■ 大動脈基部疾患
■ 大動脈弁疾患
大動脈センターでは、すべての大動脈疾患を対象に手術を行います。手術は診断技術、術式、手術道具及び材料の発達により安全度が高くなってきています。ただし、どんな手術にも危険がまったくないというものはありません。まして、大動脈の手術ですから、手術前には病気、病状、手術の内容・危険性、及び術後の経過や遠隔期の治療法などの説明を十分にする必要があります。
現在、手術を受けたほとんどの方々は日常生活に戻り、職場復帰もしておられます。手術は救命だけではなく、生活の質(Quality of life ; QOL)の向上のためにも有効な治療法ですが、そのためには、時期を失することなく、手術を受けられることをお勧めします。
1.急性大動脈解離に対しては、常時緊急手術に対応しており、全ての診療依頼を受け入れています。
2.これまでは手術困難といわれていた超高齢者や臓器合併症を持たれている患者さんに対しても、手術方法、体外循環方法を適切に選択することでより積極的に手術を行っています。
3.腹部大動脈瘤手術では「皮膚切開10cm、手術時間3時間以内」の低侵襲手術が可能です。
4.胸腹部大動脈瘤手術では、当センターの特徴である出血量の少なさの為、合併症発生率が大幅に低下しております。
5.大動脈基部疾患に対しては、自己弁温存と人工弁使用を選択し、胸部大動脈瘤手術においては多くの手術実績のもと、定型的手術を確立しています。
急性大動脈解離(解離性大動脈瘤)
急性大動脈解離は未治療の場合、非常に死亡率の高い病気です。 激痛を伴い発症した患者さんは、しばしば循環不全や臓器の虚血(血流障害)に見舞われます。適切な手術治療が生命の危機を脱する唯一の手段です。 手術方法は、”胸部大動脈瘤の治療” でご説明する上行大動脈瘤、および弓部大動脈瘤とほぼ同じです。 ただし、血管が非常にもろいことが多く、高度な手術技術が必要です。術後は通常の大動脈瘤よりは、ゆっくりとしたリハビリプログラムを行い、社会復帰を可能にしています。
入院期間はおよそ2~3週間です。 退院後もある一定期間は、慎重な経過観察が必要です。
胸部大動脈瘤の治療
動脈瘤の手術は、動脈瘤を切除し、その部分を人工血管で置き換える方法で行います(人工血管置換手術といいます)。 胸部大動脈瘤は大きくわけて2つの種類があります。心臓に近い部分の胸部大動脈瘤(上行大動脈瘤/弓部大動脈瘤)と、背中の側にある心臓から遠い部分の胸部大動脈瘤(遠位弓部大動脈瘤/下行大動脈瘤)です。
上行大動脈瘤と弓部大動脈瘤は胸の正中部を切開し、人工心肺という器械を装着後、心臓を止めて手術を行います。 この部位の動脈瘤は脳に行く血管の入り口に近いため、この手術で問題となるのは手術中の脳の保護方法です。私たちは、体温を下げて脳に血液を循環させる安全な方法で手術を行っており、現在、脳障害は大幅に減少しました。この種類の動脈瘤手術時間は、およそ5~6時間で、入院期間はおよそ2~3週間です。
※手術時間、入院期間は通常の場合であり、これより長くなる場合もあります
遠位弓部大動脈瘤や下行大動脈瘤の手術は、脇の下の肋間(肋骨と肋骨の間)から行います。 この手術にも人工心肺は使用しますが、心臓を動かしたままで手術を行います。手術時間は通常3~5時間程で、入院期間は2~3週間です。
※手術時間、入院期間は通常の場合であり、これより長くなる場合もあります。
胸腹部大動脈瘤の治療
胸腹部大動脈瘤とは、胸部から腹部にかけての広範囲に動脈瘤ができている病気です。 胸腹部大動脈瘤に対する手術は、大動脈手術の中でも最も困難な手術の一つと言われていました。しかし、私どもの施設では、この胸腹部大動脈瘤に対しても積極的な手術治療を行っています。
手術は左側方から腹部に達する切開で行います。 体外循環は動脈瘤の部分の血流を迂回させるバイパス回路を使用します。動脈瘤を全長に渡り切除し、全てを人工血管で置き換えます。手術では、下行大動脈から分かれる肋間動脈(脊髄に血液を供給する動脈)、腹部大動脈から分かれる腹腔動脈、上腸間膜動脈、左右腎動脈などの重要分枝血管を再建します。
この手術で問題となるのが手術中の脊髄保護です。 この、脊髄保護が不十分な場合、術後に対麻痺という下半身の神経障害を起こします。私どもの施設では、侵襲、出血の少ない手術方法と、脳脊髄液ドレナージ(背中から脊髄に細いチューブを挿入し、脊髄の血流を改善させる方法)や、脊髄保護剤などの複数の脊髄保護法を組み合わる事で、現在、脊髄神経障害の発生を抑えています。この手術では多くの場合輸血が必要です。手術時間は通常6~8時間で、入院期間は2~3週間です。
※手術時間、入院期間は通常の場合であり、これより長くなる場合もあります。
腹部大動脈瘤の治療
腹部大動脈瘤は、およそ臍(へそ)の高さの腹部大動脈に発生します。 直径が45cm以上のものが手術の対象となります。
余病(合併症)の有無や年齢は手術適応(手術をするか否か)には原則的に関係しません。 90歳の方でも手術を受けることができます。
腹部の皮膚を10cmほど切開し手術を行います。 動脈瘤のあった所に人工血管を移植します。手術時間は2時間から3時間程で、ほとんどの場合、輸血の必要はありません。
手術の翌日から食事が始まり、歩行も自由にできます。 通常は約1週間で退院となります。
大動脈基部疾患
大動脈弁輪拡張症、基部異常
大動脈基部とは、大動脈弁とその周辺の大動脈を指します。大動脈弁の周りが拡張してしまう大動脈弁輪拡張症に対しては、人工血管のみを使用し、大動脈弁を修復して拡張を改善させる手術や、人工血管と人工弁を併用した手術などを行います。70歳以下の若年の元気な方には、積極的に大動脈弁を温存して修復する手術を行っております。また、すでに人工弁の手術を受けられていて、人工弁周囲に異常を認める方、大動脈弁から大動脈に異常を認める方などに対しても、大動脈基部の手術を行います。特に、マルファン症候群の方に対しては、この手術が必要となります。
大動脈弁温存基部置換術 術中写真
はじめに
2005年より企業製の大動脈瘤治療用のステントグラフトが保険適応となり国内でも使用可能となりました。ステントグラフトはステントと呼ばれる金属のバネの部分とそれを被覆するグラフトと呼ばれる人工血管の部分からできています。胸や腹を切開することなく、足の付け根の動脈からカテーテルを使用し、このバネ付き人工血管を大動脈瘤の部分に留置します。大動脈瘤はそのままですが、瘤の部分には血圧が直接かからなくなりますので、破裂の危険がなくなります。通常の手術に比べ体の負担が少ないのが特徴です。
ステントグラフト
専門医により適切な診断と治療をおこないます
すべての大動脈瘤がステントグラフトで治療できるわけではありません。また、ステントグラフトはすべての点で手術よりも優れているわけではありません。大動脈瘤の治療を行っている施設の中には、ステントグラフトの治療だけを行い、手術治療をほとんど行っていない施設があります。治療方針がステントグラフトに偏ってしまうと、手術の方が良い場合にもステントグラフトを施行され、最悪の場合には、再手術が必要になり、その手術は初回以上に困難な手術となってしまうこともあり、ステントグラフト治療と手術治療の両方をバランスよく行っている施設で、適切な診断、治療を受けることが大切です。
京都第二日赤大動脈センターでは専門の心臓血管外科医、循環器内科医があらゆる角度からステントグラフトの可能性を検討し、治療方針を決定しています。
ステントグラフトによる胸部・腹部大動脈瘤治療イメージ
ステントグラフト治療の選択には専門的な知識と判断が必要です
ステントグラフト治療には解剖学的適応と言われる適応条件があります。当センターでは一人一人の患者さんの状態を詳細に検討し、その患者さんにとって最良なステントグラフト治療(オーダーメイドステント、手術との併用など)を行っています。このため他の病院でステントグラフトが困難、あるいは不可能であるといわれた患者さんに対しても適切な対応が可能となっています。 腹部大動脈瘤の前向き比較試験で、術後4年間での動脈瘤関連死は外科手術よりもステントグラフト治療の方が有意に低いことが証明されています(Lancet 365:2179,2005)。10年前と比べると最近のステントグラフトでは改良され、治療成績も格段に向上しています。ただし、この治療の歴史は10数年程度であり長期の成績は不明です。
ステントグラフトによる治療イメージ
ステントグラフト治療の長所を活かすことが大切です
大動脈瘤の形や場所によっては、ステントグラフト治療のほうが手術治療よりも良い場合もあれば、逆の場合もあります。京都第二日赤大動脈センターの治療方針としては、患者さんの全身状態を正確に評価し、手術治療がよいのか、ステントグラフト治療がよいのかを専門の医師が判断しています。他の病院でステントグラフト治療が困難と診断された場合にも、専門外来で患者さんの相談に応じております。
(左) 初CT:治療直後最大径5cm
(右) 半年後CT:最大径4cmに縮小
●検査
最新の画像診断装置によって、短時間で正確な診断ができるようになりました。とくにthin slice 造影CTが重要です。
-
- 胸部X線
- 超音波エコー
- CT
- 血管造影
- 磁気共鳴映像法(MRI)
簡単に胸部大動脈の拡大がわかるとともに、肺や心臓のチェックもできます。
胸壁から超音波を当てる検査と、食道の中から胸に超音波を当てる検査を組み合わせれば、胸部大動脈瘤はほとんど診断できます。 このほか、大動脈弁閉鎖不全や心嚢液がたまっているかどうか、心機能はどうかなども同時に検査することができますし、大動脈解離の場所や状態も診断できます。腹部に超音波をあてる検査では、腹部大動脈の“こぶ”や解離の診断が可能です。
エコー同様、重要な検査です。CTの利点は、安全で、しかも迅速な診断ができ、患者さんに負担がかからないこと、しかも普及した装置なので多くの病院で診断ができる点にあります。この検査で大動脈瘤の大きさ、範囲、周囲の臓器の状態、さらに解離があれば、その形態や範囲など多くの情報が得られるのが特長です。最近では3次元の画像が得られるようになって、“こぶ”の状態がいっそう把握しやすくなっています。
エコーとCT検査の登場で血管造影の占める役割は変化しているものの、依然、重要な検査であることに変わりはありません。しかし、血管造影は、患者さんに身体的負担が大きいので、急を要する場合には省略することが多くあります。
磁気を使って画像を得る検査です。特長は、どの方向からも画像が撮影できる、エックス線被ばくがない、より鮮明な画像が得られることです。 ただし、強力な磁場が必要なので、ペースメーカーや人工呼吸器を使っている患者さんでは検査ができませんし、検査に時間がかかりすぎる制約もあり、大動脈瘤の診断に必須ではなく、補助的な検査といえます。
基本的にはエコー、CTが必須で、その他の検査を組み合わせるのが一般的です。
2.低侵襲心臓手術
3.ウルフ-オオツカ手術:心房細動による脳梗塞を予防するための新しい外科治療
人口の高齢化とともに慢性心房細動の有病率は増加し、我が国において将来的には100万人を超える患者が心房細動を発症すると予測されています。一般に高齢者に多いとされていますが、30~50歳代の働き盛りの方が経験することも珍しくありません。
心房細動の問題点の一つに脳梗塞を始めとした致死的な血栓塞栓症の発症があげられます。
心房細動は血流の淀みを生み、これが血栓となって脳梗塞などの深刻な血栓塞栓症を引き起こします。心房細動を放置することは高確率に血栓の発生から脳梗塞などの塞栓性疾患に結びつきます。これらの疾患は致命的であることも多いですが、死を免れたとしても半身麻痺などの深刻な後遺症を招き著しいQOLの低下につながります。
心房細動が原因の脳梗塞は脳梗塞全体の約20%を占め、重い障害を残し予後が悪いといわれています。
心房細動による脳梗塞予防の一つとして抗凝固療法(ワーファリンなどの内服)があります。しかし、時として重大な出血性副作用などのため抗凝固療法の継続が困難な場合、また適切に抗凝固療法をされていたとしても致死的塞栓症を発症する事があります。
心房細動による血栓の多くが左心耳にあるといわれています。心房細動を有する弁膜症、虚血性心疾患における開心術の際に以前から左心耳を外科的に切除または結紮する方法が試みられ、近年有効性が報告されてきました。しかし、これらの方法は心房細動のみを有する患者さん対しては外科的な左心耳の切除は治療の選択肢となることはありませんでした。
一方で、海外の施設において、カテーテル的に左心耳内にデバイスを埋め込み、左心耳を閉鎖することで血栓塞栓症を予防できるか否かが試みられ、ワーファリンの内服治療との非劣勢(ワーファリンの内服と変わらない)が証明され近年国内においても導入される施設も増えてきています。しかし、このデバイスを植え込む時の合併症、特に出血や塞栓症の発症が少なからずあるということと、デバイス自体の価格が高価であるとの問題も指摘されています。
これらの点をふまえて、胸腔鏡下に呼吸器外科で用いられる自動縫合器を用い、左心耳を完全にその根元から切除する手術方法(ウルフ-大塚手術)が開発されました。同方法にて近年心房細動を原因とする血栓塞栓症の発症が予防できることが報告されています。
同方法の有用な点は
(1)左心耳を根元で切除するために新たな血栓の形成がおこらない
(2)左心耳の切除は、壁の厚い左心耳の根元で行われるため出血のリスクが極めて少ない
(3)手術は完全胸腔鏡下で施行が可能で、手術時間が短く低侵襲であるといった点です。
この方法を用いて左心耳を切除された心房細動をお持ちの患者さんのほとんどが抗凝固療法の中止が可能となります。抗凝固療法からの離脱は特に出血のリスクが高い高齢の患者さん、内服薬のコントロールが困難な認知症をお持ちの患者さん、抗凝固療法が原則禁忌の透析患者さん、またスポーツをされるような若年の患者さんにとっては極めて恩恵の得られる治療法であると考えられます。
当院において2019年8月より本手術法が施行可能となりました。
手術は1~2cm程度の小切開を4か所開け、そこから専用の胸腔鏡、鉗子、自動縫合器を用いて行います。手術時間も1時間程度であるため、患者さんにとっては低侵襲であると考えられます。
当院不整脈チームと大塚先生(2019年8月)
ウルフ-大塚法には次の3つの効果があります。
- 脳梗塞予防効果
- 抗凝固治療からの離脱効果:出血性病変(消化管出血など)を持つ方など抗凝固治療が困難な患者さんは言うに及ばず、抗凝固治療によって日常生活に支障がある方や不安をお持ちの患者さんにとって離脱効果は大きいといえます。
- アブレーション効果
対象患者さん
心房細動を有し:
- 脳梗塞予防のために抗凝固療法を受けているが、出血・貧血などの副作用や高齢・認知症・腎機能障害などの医学的理由(あるいは社会的・経済的理由)により、有効な治療を安定して継続することが難しい患者さん。
- 抗凝固療法を今から始める予定、または現在行っている患者さんで、抗凝固薬を減量や休薬した場合に脳梗塞のリスクが高い患者さん。
- メジャー手術前にて抗凝固療法の中止を必要とする患者さん。
- 職業などにおける抗凝固療法により活動制限をうける患者さん。
- その他
最新の抗凝固治療も、最高のアブレーション治療も心房細動性脳梗塞に十分対処することはできずにいるのが現状です。ウルフ-大塚法は左心耳切除する事で抗凝固療法、アブレーション治療における問題点を克服するものであり、アブレーションがうまくいった患者さんにとっても左心耳切除は将来の危険を見据えた追加治療になるといえます。
創部術後1週間
対象となるおもな疾患
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■虚血性心疾患:心筋梗塞、狭心症など
心臓は心筋という筋肉を利用して体に血液を送る役割をしています。この心筋を動かすためには、自身が送り出した血液に含まれる酸素や栄養分などのエネルギーを利用しています。これらエネルギーを運ぶための血管が冠動脈です。心臓に頭から冠(かんむり)をかぶせたように配置されているためこのように呼ばれています。この冠動脈が動脈硬化などの理由で細くなる、詰まってしまうなど、心筋に十分なエネルギーを含む血液を供給できなくなってしまった状態のことを虚血性心疾患と呼び、これは狭心症や心筋梗塞という状態に大きく分けられます。
冠動脈の径が細くなり血液の流れが悪くなった状態で、症状の程度は様々です。運動時に胸痛を感じる場合から早朝や夜間に、または運動もしていないときに症状が出ることがあります。また心窩部痛、歯や肩の痛みなど感じる痛みが胸痛以外に出ることもあります。
冠動脈が完全に詰まってしまった状態です。どの部位が詰まってしまうかによって状態も様々ですが詰まった部位の先には血流がなくなるため、エネルギーの供給を失った心筋は刻一刻と壊死を始め、非常に危険な状態となります。このままでは急性心不全・重篤な不整脈・心筋の破裂などの合併症を引き起こすため速やかな治療を行わなければなりません。激しい胸痛が長時間持続する症状が一般的ですが、中には症状を伴わない場合もあります。
虚血性心疾患を疑って検査をする場合など時間的余裕がある場合には心臓CT検査で状態を判断する方法があります。石灰化などで判別が難しいことが予想される場合や、時間的余裕がない場合には冠動脈造影検査を行います。これはチームとして循環器内科の先生方に連携していただく検査となります。
治療の方法は大きく分けて3つあります。薬物療法・経皮的冠動脈インターベンション・冠動脈バイパス術(CABG)です。循環器学会のガイドラインにより状態に合わせて最適な治療法が推奨されていますが、心臓血管外科で担当する分野は冠動脈バイパス術(CABG)です。冠動脈バイパス術とは、冠動脈の細くなった部分や詰まってしまった部分より下流の部位に別な血管(バイパスグラフト)を縫合することで新たな道を作り、不足している血流を改善させる方法です。バイパスグラフトの種類としては胸の内側にある内胸動脈や、腕の橈骨動脈、下肢の大伏在静脈や胃の周囲にある右胃大網動脈などを使用します。冠動脈バイパス術では人工心肺装置を使用して心臓を止めて行う手術方法(心停止下冠動脈バイパス術)と、心臓を動かしたまま行う手術方法(心拍動下冠動脈バイパス術)がありますが、どちらにもメリットとデメリットがあるため、術前検査や患者さんの状態に合わせ、どちらの方法がより患者さんに適しているかを総合判断で手術方法を決定します。
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■弁膜症
心臓は4つの部屋(右心房・右心室・左心房・左心室)を持っています。体から返ってくる血液は右心房から右心室へと流れ、肺を通った後に左心房から左心室へと流れ、再び全身に送り出されます。この血液の循環を保ち逆流を予防するためにそれぞれの部屋の出口に弁が存在します。右心房、右心室、左心房、左心室の出口の弁の名前はそれぞれ三尖弁、肺動脈弁、僧帽弁、大動脈弁といいます。これらの弁が様々な原因で動かなくなったり(狭窄症)、逆流を生じてしまったりした状態(閉鎖不全症)を心臓弁膜症と呼んでいます。
急性疾患の特別な場合を除いて、心臓弁膜症が生じても大部分の場合は徐々に病態が進行し、その進行具合によって心臓や体が元の状態を保とうとしますので、すぐには症状として現れません。これを代償機構と呼び、この限界を超えた場合に明らかな症状としてあらわれます。これは心不全の症状と同じで、肺に水が溜まることによる咳や呼吸苦、全身に水が溜まることによる下肢のむくみなどがあります。しかしこのような状態の前にも、階段や坂の上り下りが辛くなったなどの気づきにくい症状もあり、明らかな症状が出たと時にはかなり病態が深刻になっている場合もあるので注意が必要です。早期に手術を行った場合、通常と変わらない生命予後が期待できるものであり、時期を逸しない時期の手術を強くお勧めしています。
心臓超音波検査が必須となります。当院では最新式の心臓超音波検査機器をそろえ、専門医師と専門技師が日々検査にあたっておりますので、心臓の詳細な状態を検査することができます。
心臓弁膜症の治療は大きく2つに分けられます。
ご自身の弁を人工の弁に取り換える手術 : 弁置換術
ご自身の弁を修復する手術 : 弁形成術
僧帽弁は僧帽弁閉鎖不全症の病態が多く、出来るだけご自身の弁を修復して利用する僧帽弁形成術を行うよう積極的に取り組んでいます。僧帽弁狭窄症は近年日本では減ってはいますが、この病態では人工弁への弁置換術を行っています。
大動脈弁は近年の高齢化社会に伴い、大動脈弁狭窄症が増加しており、この病態には人工弁への弁置換術を行っています。
また従来、大動脈弁閉鎖不全症にも弁置換術が行われており現在も主流ではありますが、ご自身の弁が形成に適しておられ、ワーファリン不要のメリットが大きいと判断される患者さんにおいては、ご自身の弁を利用した弁形成術も積極的に採用しております。近年この分野は大動脈弁分野での注目される手術となってきています。
人工弁には大きく分けて生体弁と機械弁があります。生体弁には術後ワーファリンを使用する期間が2-3カ月と限定的であるというメリットがありますが、耐用年数が10年から15年というデメリットもあります。機械弁は耐用年数が永久であるというメリットの反面、生涯ワーファリンを内服しなければならないというデメリットがあります。
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■大動脈疾患:大動脈瘤、大動脈解離など
動脈瘤とは、大動脈がこぶの様にふくれる病気のことをいいます。 動脈瘤は、動脈壁(血管の壁)の弱くなっている部分に発生し、血流によって圧力を加えられると外側に向けてふくらみます。動脈瘤を治療しないで放置すると、破裂し死に至る危険性があります。どの場所にも出来る可能性があり、できた場所によって、胸部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤、腹部大動脈瘤などといいます。
大動脈瘤の大半は無症状で、何の症状もなく大きくなります。動脈瘤が大きくなり、周囲の組織が圧迫されるようになって初めて症状が現れますが、症状が出現する頃には動脈瘤はかなり大きくなっている事が多く、無症状のまま破裂や解離する事もあります。破裂する時になって初めて症状がでます。激烈な痛みがあり、動脈瘤の場所によって胸部痛、背部痛、腰痛などとなります。
基本的にCT検査となります。
基本的に人工血管置換術とステントグラフト治療(血管内治療)があります。 人工血管置換術は、動脈瘤を取り除いて、人工血管に置き換える手術となります。動脈瘤の場所によって、胸部大動脈人工血管置換術、胸腹部大動脈人工血管置換術、腹部大動脈人工血管置換術などとなります。人工血管置換術は開胸や開腹を伴い、患者さんの負担は伴うものの、動脈瘤を取り除くので確実性が高いと言えます。
ステントグラフト治療は、動脈瘤はそのままの状態で、血管の内側から針金入りの人工血管で蓋をする治療です。鼠径部の小切開のみで行うことができ、低侵襲が特徴です。ただ動脈瘤はそのままの状態であり、再治療を要することが約5%あります。年齢や状態、どんな病気をお持ちかによって、患者さん一人一人に最適な治療を選択しております。
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■末梢血管疾患:閉塞性動脈硬化症、下肢静脈瘤など
動脈硬化とは血管の壁が肥厚し、内腔が徐々に狭くなって(狭窄)、最後にはつまってしまう(閉塞)病態です。
血流が悪くなることにより種々の症状が起こります。通常、足が冷たく感じる・しびれを感じるくらいからはじまり、だんだん歩くと足が痛くなったり、あるいは安静にしているときでも痛みを生じるようになってきます。そうなると足の趾やかかとなどが黒く壊死したり、潰瘍ができるといった症状があります。恐ろしいのは、糖尿病などの基礎疾患があると、症状がなくとも動脈の狭窄は徐々に進行することがあることです。足に壊死や潰瘍があると、細菌感染を併発しやすく、ひとたび感染が起こると、血流が悪くなり、より中枢側での切断が必要となったり、体に感染が波及して、全身状態が悪くなる(敗血症)ことがあります。
当院では循環器内科、心臓血管外科のチーム医療で重症虚血肢の治療にあたり、良好な成績をおさめています。膝下の小口径動脈へのバイパスや、経カテーテル的な狭窄拡張術を組み合わせたハイブリッド治療も積極的におこなっています。
下肢静脈瘤とは足の血管がふくれてこぶの様になる病気です。足の静脈の役割は、心臓から足に送られ使い終わった汚れた血液を心臓に戻すことです。重力に逆らって足から心臓に血液を送らないといけないので、静脈の中には弁があり、立っている時に血液が足の方に戻ってしまう(逆流)のを防いでいます。下肢静脈瘤は、この静脈の弁が壊れることによっておこる静脈独特の病気です。弁が壊れる原因には遺伝や妊娠・出産、長時間の立ち仕事などがあります。
下肢静脈瘤のおもな症状はふくらはぎのだるさや痛み、足のむくみなどです。これらは1日中おこるのではなく、長時間立っていた後や、昼から夕方にかけておこります。夜、寝ているときにおこる“こむら返り(足のつり)”も下肢静脈瘤の症状です。また、皮膚の循環が悪くなるため、湿疹や色素沈着などの皮膚炎をおこす事があります。皮膚炎が悪化すると潰瘍ができたり、出血することがあります。
下肢静脈瘤の治療法には弾性ストッキングを使う圧迫療法や手術療法があります。手術には、静脈を引き抜くストリッピング手術と、高周波で静脈を焼く血管内焼灼術の2つがあります。以前から行われているストリッピング手術は、太ももの悪くなった静脈を手術で取り除きますが、高周波治療は中から静脈をふさいで血を流れなくしてしまいます。“低侵襲治療”と呼ばれる体に優しい治療です。従来のストリッピング手術では足のつけ根と膝の2ヶ所を切開しなければならないのに対し、高周波治療では膝の内側に細い針を刺すだけで治療することができます。また、太ももの血管を引き抜かず、その場所で焼いて塞いでしまうので、出血や手術の後の痛みが少なくなります。
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スタッフ
職 名 | 名 前 | 専 門 | 資 格 |
部 長 | 後藤 智行 |
大動脈疾患 弁膜症 虚血性心疾患 低侵襲治療 |
日本外科学会 認定医・外科専門医・指導医 |
令和2年4月より心臓血管外科部長を拝命いたしました。私は平成12年に京都府立医科大学を卒業後、京都府立医科大学、国立循環器病センター、福井循環器病院、マレーシア国立心臓センター、京都岡本記念病院などで、多くの手術を行ってきました。平成30年4月より京都第二赤十字病院に赴任してからも、安心、安全な手術を心掛け、多くの患者さんを救命してまいりました。 心臓や大動脈の病気は命に直結します。その治療の最後の砦として、手術があります。命の危機に瀕していた患者さんが、手術によって元気に回復され退院されていくことが我々の喜びです。その為に、術前、手術、術後管理においてベストな医療を提供できるよう、チーム一丸となって診療にあたっております。 |
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医 長 | 谷口 智史 | 心大血管疾患 末梢血管疾患 |
日本外科学会 外科専門医 |
医 師 | 林 孝明 |
患者会
◆『かまんざ心臓病予防と対策友の会』のご案内
三大成人病の一つであります心臓病の数は年々増加しており、当院においても心臓手術、経皮的冠動脈形成術など急性期医療を受けられる患者さんが増えているところですが、患者さんは疾患の性格上、生涯をかけて日常生活に留意しつつ、外来診療を受けなければならず、その精神的重圧はきわめて大きいものだと考えられます。このような点から当院通院患者さんより、患者の会のようなものを作り、同じ病気をもつもの同士で親睦を図り、励まし合いながら、医療従事者の協力を得つつ、病気の再発を予防していきたいとのご意見が少なからずあり、『かまんざ心臓病予防と対策友の会』を結成しました。 第1回開催は、平成12年10月7日京都全日空ホテルにて特別講演として、女優の仁科亜季子さんをお呼びし、以後定期的に特別講演、懇親会を開催しており、今後も本会を発展させていきたいと考えておりますので、皆様方のご参加をお待ちしております。 なお、詳細につきましては、当院医療社会事業部にお問い合わせください。
心臓血管外科手術症例
全症例
開心術
Wolf-Ohtsuka手術
外来当番表
月曜日 | 火曜日 | 水曜日 | 木曜日 | 金曜日 | ||
3診 | AM | 担当医(血管外来) | 藤原(静脈瘤) | |||
4診 | AM |
後藤(心臓外来) |
佐藤(血管外来) (1・3・5週) |
後藤(心臓外来) | ||
PM |
|