形成外科

診療方針

 形成外科とは、身体に生じた組織の異常や変形、欠損、あるいは整容的な不満足に対して治療を行い、生活の質(Quality of Life)の向上を目指す診療科です。治療の中心は手術ですが、内服治療、器具による矯正、医療用レーザーなどの非手術的治療も行います。
 日本の医療全体を見ると、形成外科は比較的新しい診療科です。当院形成外科の開設は昭和52年と京都でも早く、長く市民の皆様の身体と心の健康に寄与してきました。今後も新しい技術を取り入れながら、地域の中核的な急性期病院としての役割を果たしてまいります。

形成外科が治療対象とする疾患

 形成外科が対象とする疾患は、新鮮外傷、新鮮熱傷、顔面骨骨折および顔面軟部組織損傷、唇裂・口蓋裂、手・足の先天異常、外傷、その他の先天異常、母斑、血管腫、良性腫瘍、悪性腫瘍およびそれに関連する再建、瘢痕、瘢痕拘縮、肥厚性瘢痕、ケロイド、褥瘡、難治性潰瘍、その他(眼瞼下垂症、顔面神経麻痺、リンパ浮腫など)などです。専門とする臓器が決まっておらず対象疾患が多岐にわたりますが、大まかに言えば、見た目が問題になる部位の治療、治りにくい傷の治療、傷あとの治療を形成外科で行います。具体的に当院で行っているのは以下のような内容です。

1.顔面、頭部、手足の外傷、熱傷(切り傷、すり傷、やけど)
皮膚に生じたあらゆる種類の傷を当科で治療します。他院で縫合を受けたあとの処置も承ります。出血が止まらない、広範囲の熱傷など、緊急処置が必要な場合は、救急外来を受診してください。Q&A もご参照ください。
 手指の外傷のうち骨折・腱損傷などは、当院では整形外科が扱っています。切断指および皮膚軟部組織欠損や血管損傷を伴う重症四肢外傷については、当科と整形外科で協力して行います。

2.顔面骨骨折および顔面軟部組織損傷
 頬骨骨折、眼窩底骨折など中顔面の骨折を多く扱っています。咬み合わせが関係しない骨折については、吸収性プレートを用いた固定術を行います。下顎骨骨折など、咬み合わせが関係する骨折については、チタンプレートを用いた固定を行います。

3.顔面・手足・その他の先天異常
 副耳、耳瘻孔などの耳の異常や、その他の先天的な体表の異常について、手術治療を行います。埋没耳などに対する耳の装具治療も行っています。手足の奇形(合指症、多指症、絞扼輪などの指の数や形の異常)や臍ヘルニアなどの臍の変形に対する治療も行っております。口唇口蓋裂については京都府立医科大学と連携しながら、治療に関する相談を受け付けています。

4.母斑(あざ)、血管腫、良性腫瘍(ほくろ、いぼ、粉瘤)
 様々な皮膚腫瘍・皮下腫瘍に対して摘出術を行っております。大きな腫瘍を切除した場合などに生じる組織欠損に対しては、できるだけ目立たない傷跡になるように皮弁法や植皮などを用いて再建します。手術での切除が中心ですが、レーザーでの治療をお勧めすることもあります。レーザー治療の対象となる疾患(血管腫、太田母斑など)については、診断の後、治療可能な機関へご紹介します。なお、当院では美容目的の治療は行っていませんのでご了承ください。

5.悪性腫瘍およびそれに関連する再建
 皮膚がんの切除と、それによって生じる傷を閉じるための手術(皮弁術、植皮術など)を行います。詳しくは各種手術の詳細をご覧ください。皮膚がん以外にも、乳がん切除後の乳房再建や、頭頚部がん切除後の再建、骨・軟部腫瘍切除後の四肢再建も行います。これらの再建外科手術では、マイクロサージャリー(顕微鏡下での微小血管・神経縫合)を用いた遊離組織移植を行います。乳房再建ではシリコンインプラントを用いる方法、自家組織(腹部穿通枝皮弁・広背筋皮弁など)を用いる方法など、ご本人の希望に合わせた治療が可能です。

6.瘢痕拘縮・ケロイド・肥厚性瘢痕
 「傷あと」に関するあらゆる問題に対処します。拘縮(引きつれ)が生じて機能的に問題がある場合は当然のこと、傷をなるべくきれいに治すための処置・アドバイスも行っています。体質によって生じる肥厚性瘢痕・ケロイドといった傷あとのトラブルに対して、外用剤・内服薬・注射薬・手術・放射線治療などを組み合わせた集学的治療を行います。(詳細はケロイド治療をご参照ください。)

7.難治性潰瘍・褥瘡・足潰瘍
 「床ずれ」を中心とした、治りにくい傷に対して、手術治療や生活上のアドバイスをします。高齢の方については、入院・手術を含んだ積極的治療がご本人の意向や身体的状況に沿わない場合があります。状況に応じて、無理のない治療をご提案します。他院・他科の手術後で傷がなかなか治癒しない場合も、当科で治療を行います(紹介が必要です)。
動脈硬化や糖尿病によって生じる足の傷については、循環器内科・糖尿病内科・心臓血管外科・専門看護師と共同して、術後のQOL(生活の質)を重視した治療を行います。その他の血流障害やリンパ流の障害で生じる潰瘍を含め、フットケア専門外来を開設し診療にあたっています。

8.その他の疾患:眼瞼下垂、爪の変形(陥入爪、巻き爪、外傷後の変形)、腋臭症など

・眼瞼下垂
 加齢性眼瞼下垂、先天性眼瞼下垂について手術治療を行っています。症状に応じて余った皮膚の切除、挙筋(まぶたをあげる筋肉)の短縮、筋膜の移植によって治療を行います。

・リンパ浮腫
 外科手術などの後に生じたむくみ(リンパ浮腫)に対して治療を行っています。むくみの軽減のため、圧迫療法やスキンケアといった複合的治療やリンパ管静脈吻合術を用いた手術療法を行っています。

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 上記のように、当科が扱う症例分野は多岐に渡ります。各疾患については、日本形成外科学会のホームページ<外部リンク> にも詳しく書かれていますので、ご参照ください。なお、当院では美容外科診療は行っていませんので、ご了承ください。

形成外科での手術治療の流れ

 手術は予約制で、日帰り手術であっても、手術室で行います。
 小さな傷の縫合やレーザー治療は形成外科外来で行っています。

 手術を希望される場合、概ね以下のような順で相談・治療を進めていきます。(治療内容によって若干異なります)

①受診の前に
 まずは形成外科の外来を受診し、治療について相談してください。当院を紹介なしの初診で受診されますと、選定療養費(7700円・税込)がかかりますので、まずはお近くの診療所や病院から当院への紹介を受けてください。他にかかりつけの病院・診療所がある方は、お薬手帳もご持参ください。他院で手術を受けられた後に残った傷痕などについて相談いただく際も、できるだけ紹介状をお持ちください。

②受診
 受診されたら、問診とともに必要な検査を行って、手術治療が適するかどうかをお話しします。手術には傷ができるなどのデメリットもあるため、期待される結果とのバランスを考えて、治療方法をご提案します。目立つ傷跡(ケロイド・肥厚性瘢痕)の治療には、手術ではなく外用薬(テープや軟膏)の方が適する場合があります。手術を希望される場合は、手術予定の空きや患者さんのご都合を考慮して治療計画を立てます。もちろん、すぐの手術をご希望でなく、相談だけという方でも受診いただいてかまいません。手術日が決まったら、採血などの術前検査を受けていただきます。

③手術
 形成外科手術の多くは日帰りで行う局所麻酔手術です。来院されたら、着替えなどの準備を済ませた後、手術室に入っていただきます。手術する部位を確認し、清潔なシーツをかけた後、手術する部位に麻酔薬を注射します。痛みが取れるまで数分待ってから手術を開始します。手術終了後は、傷にやや厚めにガーゼを当て、帰宅していただきます。手術当日は、ガーゼはそのままにして、傷は濡らさないようにしてもらいます。切除範囲が大きくなる・深くなるなどの理由で全身麻酔が必要な場合、また、治療上安静が必要な場合など、入院して治療を行うこともあります。入院は最短で2泊3日ですが、治療内容によって大きく変わってきますので、受診時に個別にお話ししています。

④手術翌日診察
 手術翌日の診察で、血がきちんと止まっているか、傷の中に血が貯まっていないかを確認します。問題がなければ、自宅での処置について説明します。単純な縫い傷の場合、手術翌日の夕方から、シャワー浴や洗顔程度であれば傷を濡らしても大丈夫になります。

⑤術後1週間診察(抜糸)
 術後1週間診察で治癒していれば、縫った糸を抜糸します。頭部や手足の場合は抜糸までに術後2週間かかります。術後1~2か月の間に傷跡はいったん赤く固くなり、その後徐々に赤みが引いて柔らかくなって目立ちにくくなっていきます。抜糸後3か月程度は、傷がきれいになじむようにテーピングすることをおすすめしています。

⑥アフターフォロー
 傷跡に問題が無いか、手術後1か月・3か月・6か月の時点で経過をみせていただきます。アフターフォローが必要な理由は、体質や傷の部位によって、傷跡の赤みや固さがいつまでも引かず、逆に盛り上がってくることがあるからです(ケロイド・肥厚性瘢痕)。そのような場合は、テープや軟膏での治療を行います。

各種手術の詳細

(以下の■のついたタイトルをクリックすると詳細が表示されます)

■ 皮膚の「できもの」を切除する(皮膚腫瘍切除術)

皮膚表面のいわゆる「できもの」を「腫瘍(しゅよう)」と呼びます。良性のものは良性腫瘍、皮膚がんなど悪性のものは悪性腫瘍と言います。 皮膚良性腫瘍の中には、皮膚がふくろ状になって垢が貯まる「表皮嚢腫(粉瘤)」やホクロ「色素性母斑」などが含まれます。 良性腫瘍であっても、引っかかって痛みがある・出血する、放置すると感染を起こす可能性がある、整容上(見た目)の問題が社会生活に支障を来すほど大きい、などの問題がある場合は、保険診療下に切除術を行います。

良性腫瘍の切除・縫縮

余分な皮膚も含めて、全体を紡錘形に切除します。傷あとは元の腫瘍の大きさよりも長くなります。良性腫瘍を切除した後の傷は、多くの場合そのまま縫い閉じて一本の線状の傷になりますが、引きつれが起こりやすい部位では追加処置(皮弁や植皮)が必要になることがあります。

皮膚がんを切除する(皮膚悪性腫瘍切除術)

皮膚悪性腫瘍の多くは皮膚がんで、良性腫瘍に比べて増大が速い、組織が崩れて出血してくる、などの特徴があります。見た目から悪性が強く疑われる場合は、腫瘍の一部を採取して、顕微鏡検査(病理診断)に出し、診断をつけてから全体を切除します。

確実な切除のために、幅・深さともに腫瘍から一定の安全域をつけて、周囲の皮膚ごと大きく切除しますので、傷を閉じるために何らかの追加処置(皮弁や植皮)が必要になる場合が多いです。進行がんで転移を伴う場合は、リンパ節の切除を要する場合もあります。

■ 皮膚にあいた大きな傷を閉じる(局所皮弁術、植皮術)

良性腫瘍であっても悪性腫瘍であっても、皮膚のできものを切除した際に、そのまま縫い閉じることが出来ないことがあります。切除した範囲が大きく皮膚同士が縫い寄せられない場合や、傷が小さくてもそのまま縫うと「引きつれ」を生じてしまう場合などです。 ケガで同じような状態になることもあります(皮膚欠損創・皮膚潰瘍)。このように傷をそのまま縫い閉じられない場合は、どこかから皮膚を追加して、切除した部分の穴埋めをする必要があります。その方法が「皮弁」や「植皮」と呼ばれるものです。

局所皮弁術

局所皮弁術とは、切除部分のすぐ隣の皮膚に切れ目をいれて皮膚を移動させ、傷を閉じる方法です。全体としての傷は長く複雑になりますが、すぐ近くの皮膚を使うので、比較的目立ちにくい傷に仕上がります。ただし、傷が非常に大きい場合は、局所皮弁術では傷を閉じられない場合があります。

隣の皮膚に切れ目を入れて移動させ、皮膚不足部を閉じます。

植皮術

植皮術とは、皮膚移植のことです。傷とは離れた部位(鎖骨部、大腿部、腹部など)から薄い皮膚を採取し、皮膚の足りない部分に移植します。局所皮弁術では閉じられないような大きな傷にも対応できますが、身体の他の部分の皮膚を使うため、植皮した部分は周囲と比べて色味や質感が異なり、傷が目立つことがあります。また、皮膚を採取する部分に傷が残ります。移植した皮膚は傷にしっかり固定する必要があるので、ガーゼをボール状にして移植した皮膚の上に縫い付けて固定します(タイオーバー固定)。手や足など動きやすい部分に植皮を行った場合は、手術後1~2週間のシーネ・ギプス固定を要することがあります。

他の部位から皮膚を移植し、上からガーゼを縫い付けて圧迫固定します。

■ 傷あとに関する症状を治療する

瘢痕拘縮形成術

傷あとが引きつれて、身体の動きを妨げる状態を「瘢痕拘縮(はんこんこうしゅく)」といいます。これを治療するのが瘢痕拘縮形成術です。傷あとの組織は硬く縮んだ状態になっているので、その部分を切り取ることで、周囲の皮膚に柔軟性を回復させ、引きつれが解除されます。傷あとを切除し引きつれを解除すると、皮膚・皮下組織が足りない部分が生じることがあります。これを上記の局所皮弁術や植皮術で補って、身体の動きをスムーズにします。傷あとを切除し、その傷を縫い閉じる際には、傷あとをジグザグに加工して縫い上げることがあります。傷あとをジグザグにすることで、傷全体に柔軟性を持たせて引きつれを予防することができます。また、小さい傷の場合は、傷の全体像をぼかして目立ちにくくする効果があります。関節部の場合、関節のしわに沿う部分が多くなるよう、ジグザグに縫います。

肥厚性瘢痕・ケロイドの治療

肥厚性瘢痕およびケロイドは、いずれもケガや手術の傷あとが盛り上がって赤く硬くなった状態です。元の傷の範囲を超えないものを肥厚性瘢痕、元の傷の範囲を超えて大きくなるものをケロイドと呼びますが、いずれも類似した状態で、痛みやかゆみを伴うことがあります。肥厚性瘢痕・ケロイドの治療はいくつかの方法を組み合わせて行います。
・内服薬
トラニラストという薬を1日3回服用します。副作用はあまりありませんが、膀胱炎症状や肝機能障害が起こることがあります。飲んですぐに傷が良くなるというものではなく、数か月継続して初めて効果が期待できます。
・外用薬
ステロイドを含んだテープを傷に貼ります。全身への副作用は特にありませんが、正常な皮膚の部分に貼ると、皮膚が薄くなり血管が目立ってきますので、ケロイドの部分にだけテープが当たるように、小さく切って貼ります。テープがどうしても合わない方には、軟膏を塗っていただくこともあります。
・注射薬
ステロイドをケロイド部分に注射します。約1か月ごとに、数回治療を行います。ステロイドテープに比べると、効き目が早いです。
・手術
ケロイドは切除しても再発することも多いですが、引きつれが強い場合や、ケロイドのボリュームを減らして外用薬での治療をやりやすくするために、切除手術を行うことがあります。
・放射線治療
手術治療のみでは再発する可能性が高い場合、手術後に放射線を当てます。決められた線量を3日間に分けて当てます。ケロイドのできやすさ・治療の効果は、個人の体質や傷の場所によって、大きく異なります。再発することも多く、きれいに治すことが難しい場合もあります。ご希望と傷の状態に合わせて治療を選択します。

 

スタッフ

職 名 名 前 専 門 資 格
部 長

恋水 諄源 形成外科全般
マイクロサージャリー
再建(乳房・四肢)
創傷外科
(外傷・熱傷・難治性潰瘍)

日本形成外科学会 形成外科専門医・領域指導医・皮膚腫瘍外科分野指導医
日本創傷外科学会 日本創傷外科学会専門医
日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会
乳房再建用エキスパンダー/インプラント責任医師
日本臨床倫理学会 上級臨床倫理認定士
京都府立医科大学 臨床講師
大阪大学大学院医学系研究科 医の倫理と公共政策学 招へい教員

医 師 田中 大基    
医 師 谷口 史織    
医 師 中島 里佳 形成外科全般  

外来当番表

  月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日
1診 AM   谷口      
2診 AM 恋水 田中   中島 谷口
PM